■■性同一性障害とは■■

性同一性(ジェンダー・アイデンティティ:性自認)

まず先に、性同一性について説明します。性同一性(ジェンダー・アイデンティティ:性自認)とは、人間が有している『自身がどの性別に属するかという感覚、すなわち自分が男性、女性、あるいはその中間のいずれかであることの自己の認識』をいいます。
性役割(ジェンダーロール)とは、社会において、性(ジェンダー)という観点に基づいた自己表現の方法です。服装、話し方、ヘアスタイルなど、事実上、人々の言動に関するもので、男らしさ、女らしさを表すものであればすべてが含まれます。

ほとんどの場合、ジェンダー・アイデンティティと解剖学的な性別および性役割が一致しています。たとえば、男性は心の中で自分を男性として認識するとともに、人前でも男らしく振る舞います。

性同一性障害の当事者は、性同一性(性自認)と身体的性別とに著しい性別の不一致感、違和感があります。

【 MEMO 】
ジェンダー・アイデンティティは小児期の初め、1歳半から2歳ごろまでに形成されます。子供のうちから、男児には自分が男であるという認識が、また女児には自分が女であるという認識が育まれます。子供はときに、どちらかというと異性の子供に向いているとされる遊びを好むことがあります。しかし、たとえば女の子なのに野球やレスリングが好きだとしても、本人が自分を女だと思い、そのことに満足している限り、ジェンダー・アイデンティティに問題があるわけではありません。同様に、スポーツや荒っぽい遊びよりも人形遊びや料理が好きな男の子でも、本人が自分を男だと思い、そのことに満足しているのであれば、ジェンダー・アイデンティティに問題はありません。男児の場合はしばしば、女児用の玩具や衣服で遊ぶ発達段階を経験しますが、成人後にジェンダー・アイデンティティに問題を抱えることはほとんどありません。

性同一性障害

性同一性障害(せいどういつせいしょうがい、英:Gender Identity Disorder, 略:GID)とは、身体的性別と、自分の性別の自己意識(Gender identity、性自認)とが一致しない状態。自らの身体的性別に持続的な違和感を持ち、自己意識に一致する性をでき得る限り求める状態をいう医学的な疾患名です。性同一性障害を近年では「性別違和」と呼ぶこともあります。

性同一性障害の専門医師は、「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン」の手順に沿って性同一性障害の診断、治療を行います。
国際的な診断基準として、世界保健機関が定めた国際疾患分類 ICD-10、米国精神医学会が定めた診断基準 DSM-5を参考にしながら、以下の項目:「特徴的な性別違和の実態」を中心に検討し、身体的性別の判定や除外診断などの点を総合して、身体的性別と性自認が一致しないことが明らかであれば,性同一性障害と診断します。

身体的性別が男性である場合をMTF(Male to Female:男性から女性へ),身体的性別が女性である場合をFTM(Female to Male:女性から男性へ)といいます。

原因

性同一性障害の原因は研究データが極めて少なく明確な原因がわかっていません。

ヒトの染色体は46本あり、2本組となって23対あります。そのうち性染色体は1対2本で、男性ではXとY、女性XとXとなっています。
性分化の過程は性染色体の遺伝子に始まり、次に性腺が卵巣か精巣かに分かれます。Y染色体には性腺を決める遺伝情報である「SRY遺伝子」があり胎齢4~5週目には、このSRY遺伝子が性腺原基を精巣に変化させます。胎生6~7週目には、内性器の起源となる「ミューラー管」(卵管や子宮になる)と「ウォルフ管」(精管や精嚢になる)を2本ずつ持っています。内性器と外性器の分化は基本が女性型であり、胎生8週目ころ、精巣からのミュラー管抑制因子(AMH)と男性ホルモン(テストステロン)の大量分泌がある場合のみ男性型になります。

妊娠20週以降で再度アンドロゲンシャワー(男性ホルモン)を浴びることが分かっていますが、これが脳の性分化を決めるといわれています。男性ホルモンが多いと脳の中にある性中枢が男性として認識し、出生以後も男性としての性行動を取ることになります。一方、その時期に男性ホルモン(テストステロン)が少ないと性中枢が女性として認識して、女性としての性行動をとることになります。この脳の性分化は、胎生90日頃までに決まります。脳の分化も、基本は女性型です。

染色体・性腺・性器が男性でありながら、アンドロゲンシャワー(男性ホルモン)の量が少ないと、生まれてから男性としての性行動よりも女性としての性行動をとります。その逆も同じで、染色体・性腺・性器が女性でありながら、男性ホルモン(テストステロン)の量が多いと、生まれてから女性としての性行動よりも男性としての性行動を取ります。基本的にはこれと同じことが起きてるとして、性同一性障害の仮説とされています。

ハワイ大学の性科学の教授の「性同一性障害は性分化疾患の一亜型である」という仮説より、埼玉医大のゲノムセンターとの共同研究が行われているようです。

特徴的な性別違和の実態

ⅰ)自らの性別に対する不快感・嫌悪感
自分の一次ならびに二次性徴から解放されたいと考える.自分が間違った性別に生まれたと確信している.乳房やペニス・精巣などを傷つけたりする.FTM では声をつぶそうと声帯を傷つけたりする.
ⅱ)反対の性別に対する強く持続的な同一感
反対の性別になりたいと強く望み,反対の性別として通用する服装や言動をする.ホルモン療法や手術療法によって,でき得る限り反対の性別の身体的特徴を得たいとの願望を持っている.
ⅲ)反対の性役割を求める
日常生活のなかでも反対の性別として行動する,あるいは行動しようとする.しぐさや身のこなし・言葉づかいなどにも反対の性役割を望み,反映させる.

データ

最近の研究「札幌市における出生数あたり性同一性障害者数の推計」では、性同一性障害診療の専門施設であるジェンダークリニックの受診者からの推計で、性同一性障害の方は、約2,800 名に1名の比率で存在していると報告されています。苦しい思いを抱えながらも、ジェンダークリニックを受診できない方々も含めるともっと多くの方がいると推測されます。

性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律が平成16年7月に施行されてから平成26年末までに、性別の取扱いの変更の審判を受けた者の件数は5166件です。

性同一性障害特例法による性別の取り扱いの変更数の推移のグラフ。右肩上がり。

性同一性障害特例法による性別の取り扱いの変更数の推移

 

当事者の性自認について

性同一性障害の人は、自分の身体の性別は本来あるべき性別ではないと強く感じています。
つまり、ペニスがあり、その他身体的な特徴が男性である当事者(MTF=Male to Female"男性から女性")は、実際には自分自身を女性と感じており、また、「女性の身体を持つこと」や皆からは「女性として受け入れてもらうこと」を強く望んでいます。
また、女性の身体で生まれた当事者(FTM=Female to Male "女性から男性")は、自分の性別は男性だと感じています。

性別違和

2013年、アメリカの精神疾患の基準であるDMS-5の変更の中に「Gender Identity Disorders」から「Gender Dysphoria」へ変更となりました。日本精神神経学会では、GDを「性別違和」と訳しました。
「Gender Identity Disorders」の診断名が「Gender Dysphoria」に変更されただけでなく、内容もかなり変更されています。
DMS-5は精神疾患の世界基準ですが、日本はWHOのICD-10を採用しており、ICD-10はまだ変更されていないために日本では引き続き「性同一性障害」という疾患名が使用されます。

ここでは詳しい説明は省きます。

Gender Incongruence

現在、2018年の完成予定で国際疾患分類ICD-11へ改訂作業中のようです。
ここで注目なのが、「精神及び行動の障害」のカテゴリから、性同一性障害が除外され、Conditions related to sexual health「性の健康に関連する状態:仮訳」のカテゴリにGender Incongruence(性の不一致:仮訳)が定義されています。
つまり、精神疾患ではなくなるということです。(ICD-11 Beta版で確認できます)

現行のICD-10では、 ICD10分類 > F00-F99 精神及び行動の障害 > F60-F69 成人の人格及び行動の障害 > F64 性同一性障害
というように性同一性障害が精神疾患として分類されており、また同様にDSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)での性別違和も精神疾患として定義されています。