社会での現状

ここでは、社会で生きるうえで性同一性障害であるがゆえの現状を紹介していきます。
「性同一性障害は多様な性のひとつ」として社会の受け入れがあれば、本人の人生ももっと良いものになることでしょう。

いじめや嫌がらせが多い事がわかるデータ

内閣府「人権擁護に関する世論調査」

進学・就職

性同一性障害の当事者の多くは治療により、外見を望みの性に近づけることで、社会の一員として生きています。しかし中には、性同一性障害に係わる困難による不登校や学業不振などで、進学や就職に影響を受けている者もいます。

大学や専門学校での就活では、(性同一性障害でなければ希望した企業に就職できた可能性が高い可能性はあっても)カミングアウトをしたために、就活がうまくいかない事はよくあることです。性同一性障害であるがゆえに普通の人と同じ土俵に立てないのは、企業側もどう対応してよいかわからない、または、更衣室やトイレなどで従業員から嫌がれるだろうとの理由、窓口などお客様相手には向かないなどの理由、または「差別」などにあると思います。

戸籍変更まで済ませた場合、書類上での性別欄での面倒がないため、何らかの理由がない限りはカミングアウトせずとも就職がすんなりいく者はいます。

雇ってもらえたはいいが...

性同一性障害の当事者にとって、就労は大きな壁です。パートや派遣などで就労している当事者は多く、生活が苦しい状況が続いており、そのために治療が進まない→社会適応が進まないという悪循環に陥ってしまいます。このため、生活保護を受けざるを得なくなる当事者もいます。

また、性別移行が進んでいない当事者においては、外見と性別のギャップによる就労困難、あるいは望みの性別で就業を求めた事で職場を追われたり解雇にあうケースはよくある事です。
未治療のうちは更衣室やトイレ、仲間同士のコミュニケーションなど、解決しようのない辛さに耐えられずに職場を転々とする当事者は目立ちます。

また、性別適合手術の種類によりますが、入院~職場復帰までの期間が長期になるため人手不足で休職できない場合は仕方なく退職するケースもあります。

FTMを例にしますが、"さらし"などで胸を押さえ、カミングアウトせずに男の職に就いたはいいが、身体の性別を見破られないかという緊張感や不安はかなり大きく、ごまかし続ける事に疲れたり、女と見抜かれる度に職を変えるケースはよく見受けられます。
FTMはホルモン治療を受けると声が低くなり、髭が生え顔つきが男らしく変化していきます。身体を望みの性別に近づけるための身体的治療として、1回~数回の手術を受ける者は多くいます。手術費用が貯まると"元は女である"ことを知っている職場を辞め、「以前の自分の声、姿、性同一性障害という事を知らない職場で男として働くために」男性化への手術を機会に職場を変える当事者は目立ちます。パートで得た貯蓄は将来の自分の仕事のための資格や免許を取るためではなく、性別を見破られる事の苦痛や不安から一刻も早く逃れて精神的に安定したいために手術費用の貯金となります。

  • 職場での嫌がらせや不当な扱いによる離職や解雇
  • 鬱などの病気療養のための離職
  • 性別を読まれる不安からの離職
  • 手術による長期休暇が取れないための離職
  • 新しい環境で望みの性で働くための離職
  • 手術費用捻出のために仕事への夢の一歩である資格取得を諦める
  • 不登校から引きこもりが長期化すると虚弱体質のため低学歴でもありつけるような力仕事も就けない

性同一性障害の当事者の就労には、ざっと取り上げても以上のような問題があるため、安定していません。

恋愛・結婚

個人差がありますが、特にMTF当事者にとっての恋愛は成就が難しいものです。
戸籍変更によって性別を変えられた人は結婚できますが、子供問題にぶち当たります。相手自身も真剣に悩み、本人同士との子供を諦めてもらうしかない結婚へ踏み込めない場合や相手の親が反対したために別れを決意するカップルはよく見かけます。
どうしても子供が欲しい場合には、非配偶者間人工授精(AID)や里親になる方法がありますが、どちらの方法でも他人の遺伝子を持つ子供ということになり、当事者の子ではないという精神的な問題となります。

健康保険の適用

性同一性障害の治療は健康保険が適用されず、すべて自費となります。性同一性障害の理解が医療機関にも進んでいない事もあり、性同一性障害を受け入れる医療機関は限定的で、性同一性障害の専門医探しや診断後のホルモン治療を行う医療機関がない地域の当事者にとっては不便な思いをしています。また、所得の少ない当事者にとっては戸籍変更までの手術料金は高額なため、性別移行が思うように進まず、当事者の社会適応が遅れる素因の一つとなっています。

社会に求める対処

女性として受け入れてほしいのに社会からは心無い扱いを受け、耐えられずに心の病を持つ当事者の数はかなり多いです。
例えば、女性として生きるため、今まで男性で働いてきた会社に"女性として受け入れてほしい"とカミングアウトしてお願いすると、不当な扱いを受け、辞める方向に追いやられる。
女性として面接を受けると採用してくれる所がない。
身体の性に合わせて働くと心が悲鳴をあげ、鬱などの精神的な病に陥り、引きこもりで経済的に安定していない者もでています。

GIDの子供が思春期に迎える危機の調査では、68.7%が自殺念慮を経験し、20.6%が実際に自殺未遂や自傷行為を行っていました。
性同一性障害を理由として退職へと追われたり、就職難や離婚、勘当、家庭の崩壊となった当事者は多いです。
性同一性障害の当事者の支えとなるのは、周囲からの受け入れと配慮、励まし合う仲間が身近にいることだと思います。それがあることで、耐える心も仕事を頑張る気力も培われていくものと思いますが、周囲が偏見をもっていることで孤立している当事者は少なくありません。

GID当事者は、社会から「心の性」として生きる自分を受け入れてもらうことを強く望んでいます。社会からの差別と偏見を無くしていくためには、政府による積極的な性同一性障害への人権擁護の対応が不可欠です。世間にある偏見(変態視など)を捨て、社会が性同一性障害について理解と受け入れが広がることを願っています。