思春期

身体の違和感は思春期の頃から感じます。この時期より、性同一性障害(GID)の当事者の苦悩が始まります。

第二次性徴

第一次性徴は、卵巣や精巣など生殖器のみに見られる性差ですが、第二次性徴は形だけの差ではなく、生殖能力も含めた生物学的な性差が顕著に変化していきます。第二次性徴は、性腺刺激ホルモンの分泌からはじまり、それによって、精巣・卵巣が発育していき、それぞれの器官から男女に必要なホルモンがさらに分泌されていきます。男性らしい、または女性らしい身体つきになっていきます。

思春期の当事者の場合

二次性徴の発来に伴って自認する性別と身体の性別への違和感が強くなり、混乱をきたし、小中学校に不登校、引きこもり、虞犯(罪を犯すおそれ)行動、自殺企図など数々の問題を引き起こすことがあります。例えば、FTM(女から男へ)場合は生理の度に死にたいと思ったり、自傷する者もいます。

この時期に性別違和を感じている子は、身体検査や男女に分けられる服装、トイレなどあらゆる場面で辛い思いをします。たとえば、男の身体で男の心を持った男子生徒が女子生徒が女子制服着て、一緒にトイレ行ったり、女子と一緒に着替えはできない状態を考えるとわかりやすいと思います。

周囲にからかわれたり、嫌悪感を持たれたりする事で、当事者は自分自身に嫌悪感を抱いたり、自信が持てなくなります。あるいはそれの延長で、うつになってしまったり、不登校、引きこもりなどにつながっていくような例も見られます。小学生時代には、大体9割ぐらいは言葉で言い表すことができないといわれてます。それで、周りの人も気付くことなく、1人だけ苦しんでいるという例も多いのです

小学校、中学校、高校へと進学していく段階で、親に相談したら"勘違い"と相手にされなかったり、「お前は男だろ!ちゃんとしろっ!」と殴られたり、あろうことか、学校側から退学を勧められたり、教師から体罰やイジメにあたるような仕打ちを受ける人さえいます。
家族や教師、友達からの理解なさから、当事者本人が精神的に追い詰められ、精神疾患の発症や自殺未遂などにつながる当事者も実際にいます。

当事者と親や家族

不幸なことに当事者が意を決して親に自分の性自認について話をしても、理解を得ることができない場合も多いのです。
性同一性障害は、放っておけばいずれ普通になるようなものではないのです。わがままでもなく、我慢できる問題でもありません。一人で抱え込んだ悩みがバケツから溢れ、一人ではどうしようもない事態になり、親に助けを求めて打ち明けているのです。
自分の子の育て方が間違った。バカな事言ってないで、ちゃんと普通に生きろ!と思って、無視や体罰を与えて考えを正そうと思う親もいます。親の対応によっては、当事者は自分自信の存在を否定したり、失望したり、生きる事を頑張れなくなったり、不登校になって学問もキチンと受けられずにいる人もいます。鬱になってしまい、自傷や引きこもりになってしまう人は沢山います。

性のアイデンティティー(性自認)は人間にとってコアな要素です。
「自分はどの性別に属しているか」という性自認に違和感を持っている子を親や周囲が非難したり、心無い奇異の目で見たりするのは、性同一性障害の正しい理解と対応が行き渡っていない事にあります。

未成年の当事者にとっては何よりも、親が『受け入れてくれる』ことこそが大事だと思います。親御さんは当事者の子の不安としっかりと向き合い、寄り添ってあげてほしいと思います。その子の気持ちを受け止め、「あなたは変じゃない。あなたらしく自分を立派に生きて。」と声をかけてください。その子が自分自身を肯定できるよう寄りそってください。お願いします。

当事者への調査結果

2007年の岡山大大学院患者調査では、GIDの子供が思春期に迎える危機の調査では、68.7%が自殺念慮を経験し、20.6%が実際に自殺未遂や自傷行為を行っていました。この調査で、第二次性徴の始まる小学校高学年から自殺念慮などが強くなり、中学校と、大学~社会人の二つの時期にそれらが強いピークがありました。

性別の違和感を感じ始めた時期のデータ

性別の違和感を感じ始めた時期(※)

不登校、自殺念慮、自傷・自殺未遂のみられる時期のデータ

不登校、自殺念慮、自傷・自殺未遂のみられる時期(※)
※(平成21年10月28日発行 中塚幹也 『性同一性障害の生徒の問題に向き合う』,少年写真新聞社中学保健ニュース1446号)

小学校高学年から中学の時期には、第二次性徴による身体や声の変化、恋愛感情の発生、進学など将来を考える機会も増えることから、性別違和感の増強、自己肯定感の低下が起こり易いのです。このため、この時期のGID当事者への対応は、その後の人生にとって重要な意味を持ちます。

文部科学省は、平成22年に全国の教育委員会向けに「児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について」という、対応を促す通知を出しました。ですが、その通知の内容は文部科学省自体が具体的な支援の事項を示していない事から、現状は変わらないままでした。gid.jpという当事者団体が何度も文部科学省に対し、生徒への配慮を求める要望書を提出してきましたが、。ました。

それに応じて文部科学省が動き、平成27年4月30日の「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」の通知が教育現場にありました。これに合わせた教職員向けの対応の冊子も出ているようです。性同一性障害をもつ児童生徒への対応を行う体制づくりが進んでいく事を期待しています。

『性は多様である。多様な性に優劣はない。誰しもその「性」を「生きる権利」を尊重しなければならない。』と私は考えています。

学校での性教育授業

【 MEMO 】

岡山大学大学院保健学研究科の中塚教授による性同一性障害当事者の子どもの頃の調査によれば、ほとんどが誰にも打ち明けることができずに悩んでいます。「自分が何者かわからない」「どうなってしまうのだろうか?」などの不安を強く持っています。当事者自身へ聞いた調査では、「誰にも打ち明けることができない性同一性障害の子どもを助けるために必要なこと」は「正しい理解」で、その対象は、「社会一般の人々」「親」「教師」「性同一性障害の子ども自身」です。
当事者の子どもへは『おかしなことではない』と理解してもらうことが必要です。性同一性障害当事者は、約2,800名に1名の比率で存在していると報告から、学校の中に性同一性障害の生徒、性別違和感を持つ生徒がいる可能性は十分にあります。

ジェンダークリニックを訪れる性同一性障害当事者の中には、無理解やいじめにより、うつや引きこもりになったり、自殺をしようとしたりという経験を持つ人も多く見られます。それを防ぐためには学校での対応は重要であり、文部科学省の通知はそれを支持していると思います。すべての教育関係の方々が、まずは性同一性障害に関する正しい知識を持ち、性別違和感に悩む子どもに関心を持つことから学校での対応が始まると思います。

◆引用元(管理人による要約):現代性教育ジャーナル№29_【「性同一性障害」を性教育で取りあげる】p1-p5

参考資料

ここでは、児童や学生を対象にした政府の通達や研究者の資料などを掲載いたします。参考になります。

児童生徒が抱える問題に対しての教育相談の徹底について(通知)

性同一性障害の児童生徒への対応に関する要望書

学校における性同一性障害に係る対応に関する状況調査について

性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について

性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について(教職員向け)

性同一性障害と思春期

中学高校保健ニュース2

中学高校保健ニュース3

山陽新聞からの記事